100周年事業のコンセプトである「ひらめき×つながり」をテーマに、ご縁ある仕入れ先さまや、お客様へのインタビューを通じて、栗赤飯の魅力や秘密を様々な角度から紐解いて参ります。第5回目となる今回は、鳴海餅本店のもち米の仕入れ先であるJA佐賀 神埼を代表して、神埼営農経済センターのセンター長である、福田貴樹さまを中心に糯米作りへの思いや、産地の取り組みなど様々なお話を伺いました。
(取材日:2024.10.18)
|米どころ、肥前・佐賀。
記者:福田さま、ご無沙汰しております! ! 今年もよろしくお願いします。
福田(敬称略):一年ぶりですね。毎年ありがとうございます。宜しくお願いします。
記者:今回は、当店栗赤飯の創始100年の節目ということで、お赤飯の主役とも言える「糯米」について改めてお話しを伺いたいと思います。まず初めに、佐賀の糯米作りについて簡単にご説明いただけますか?
福田:まずは100周年おめでとうございます。では簡単に、佐賀県全体のお話しをしますとですね。佐賀は全国有数の糯米主産県でして、生産量は年間約20,000t。ちなみに県内の水田作付数のうち20%が糯米なんですが、これは全国1位の水準なんです。
左側が今回インタビューに答えてきださった福田さま。右側は同じく神埼営農センターの藤原さま
記者:全国1位ですか。流石ですね。やはりそもそも、米作りが盛んなエリアだったということにも起因するのでしょうか?
福田:それはそうだと思いますね。詳しいことは私には分かりませんが、ちょうど吉野ヶ里遺跡がここ(*神埼営農センター)すぐ近くにありますので、大昔から米づくりをしてきた土地であるというのは間違いないと思います。ただ、その中でも糯米に力を入れ始めたのは戦後から。ちょうど私の父世代が団地化や新品種の研究、区画整備などに取り組んで、今に至っています。
記者:他の産地でも「団地化」という単語をよく耳にします。何かメリットがあるのでしょうか?
福田:一番は「キセニア対策」です。いわゆる「交雑」のことですが、「コシヒカリ」の様な粳米(うるちまい)の花粉を「ヒヨクモチ」の様な糯米が受粉すると遺伝の関係で「うるち米」になってしまうので、それを避けるために、糯米に注力している産地のほとんどはこの「団地化」を行っています。
|神埼の米づくり
記者:そんな米所・佐賀県にあって、鳴海餅本店ではこの神埼エリアを指名して購入させていただいています。せっかくなので神埼エリアについても少しご説明いただけますか?
福田:神埼では「売れる米づくり」「より高品質な糯米」を目指して、「品質の統一化」に注力をしています。例えば、田植えの時期を統一することで圃場ごとのバラツキを低減したり、防除(農薬散布)のタイミングを統一したりなどです。特に防除のタイミングを統一することで、害虫の繁殖そのものを抑えられますので、結果的に回数を減らすことができます。乾燥施設などの保管加工設備の強化も進めており、エリア全体で糯米作りに取り組んでいます。
記者:私も昨年、吉野ヶ里に完成した新しいカントリー施設を見学させていただき、糯米に対する熱意を肌で感じました。ここまで糯米に注力されるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
福田:今の様に糯米に力を入れ始めたのは、戦後からだと聞いていますが、実は、私も詳しいきっかけは知らないんです。ただ、糯米自体は品質を安定させるのが非常に難しいので、そうした技術を確立することで「米の産地」として生き残る。他の産地と差別化する。という意図があったのではないかなと思います。他がやってないことをやろうと。
記者:チャレンジ精神の賜物ですね。
福田:そうですね。あとは、地理的なお話でいくと山に近く豊富な水を引くことができるという地理的な特性も、質の高いお米を作るという点での強みではありますね。
|ヒヨクモチについて
記者:そんな神埼では「ヒヨクモチ」という品種を栽培されいます。どういう品種なのでしょうか?
福田:九州でうまれた品種になります。生産者目線の特徴としては、他の品種に比べて短稈(たんかん)で、病気に強く、育てやすく九州地方の土壌にあった品種になりますね。また、食味に関しては、飴色をおびた色合いで粘りや香りも強く、炊いても固くなりにくいのが特徴です。
記者:先ほど短稈とおっしゃられましたがどういう意味でしょうか?
福田:あまり聞きなれない単語かも知れませんね。「茎の背丈が短い」という意味なんですが、風雨などで稲が倒れてしまうリスクをある程度低減することができるので、安定生産を行う上で非常に重要な特徴なんです。最近では他の品種でも短稈化を進めている産地もあると聞いています。
記者:台風が多い九州にはもってこいと言ったところでしょうか
福田:そうですね。実際、昭和46年に奨励品種に登録されて以来、もう50年近く佐賀の代表品種として生産しています。正直、ここまで長年に渡って同じ品種が生産されるのは非常に稀ではあるのですが、品種がとっても優秀なので、当分は代わりは出てこないかもしれませんね笑
記者:細かな品種改良などはされているのでしょうか?
福田:そうですね。ご存知の通り、昨今気候の変化の影響で、夜の温度が高くなっています。そうした高温に耐性を持つような品種改良は行なっています。結果的に、他産地の品種に比べて高温下でも障害が起きにくい様にはなってきています。あと、さきほど品種の特性として「餅が飴色になる」とお話ししたのですが、最近少し白みがかかって来るようになりました。
記者:それも品種改良の結果でしょうか?
福田:いえ実は、自然と白くなっていってるんですよ笑。 所内では「先祖返りかな」という話はしていますが、詳しい理由は全くわかりません笑。まぁ、お餅の見栄え的には白い方が好まれるので結果的にお客様には喜んでけるので嬉しい変化なんですが、理由がわからないので、また何かの拍子で飴色がかってくるかも知れませんが…笑
記者:まさに自然の神秘…神のみぞ知るですね。
福田:ほんとに不思議です。いまだにわからないことだらけです笑
|とにかく良いものを届けたい
記者:先ほど高温障害のお話がでましたが、環境も含めて近年米づくりで難しいなと感じる点はありますか?
福田:そうですね、やはり高温の影響は深刻です。収穫量や品質への影響が大きいので…。また、収穫時期が少しずつ早くなってきているので、病害虫の発生時期と重なりやすく、影響が長期化してきています。あと、どこの産地もそうですが高齢化による就農者の減少も顕著ですね。ここ数年は、経費も上がって来ているので。
記者:それは、なかなか深刻ですね。産地では何か取り組みをされているのでしょうか?
福田:もちろん、それに合わせた色々な対策も行なっています。米の品種改良もその一つですが、営農の体制を家族営農から集落営農へ切り替えて、デジタル化や機械化を進めたりしています。
記者:お米づくりも変化しているんですね。
福田:変わりましたね。私が小さいときは、田植えなんかもまだ手植えでしたから。鳴海餅本店さんの栗赤飯が100周年ということで言いますと、100年前から考えると、水田の区画整備や農業用水を運ぶクリークの整備、肥料の良化など。「米づくりの景色」や「環境」はかなり変化したと思います。
記者:「時代に合わせて」ということですね。
福田:そうですね。ただ、「良い糯米を作りたい」という思いは今も昔も変わりません。そのための技術や設備の導入です。「品質事故ゼロ」そして「安心して使っていただけるお米をつくること」これ以上に大事なことは無いと考えています。
|今年も、やっと収穫間近。
記者:ずばり、今年の糯米はどうでしょうか。
福田:背丈もよく、実成りも良いので期待できると思いますよ。ただ、昨年以上に今年は夏の気温高かったのでそこが心配ですね。
記者:ウンカやカメムシなど、病害虫の影響はどうでしたか?
福田:ここ数年に比べると今年は少なかったですね。防除もしっかりとできましたので。ただ、今年はジャンボタニシが酷かったです。
記者:ニュースでも拝見しました。一度入るとなかなか駆除ができないとか。
福田:そうなんです。暖冬の影響で越冬の個体数が多かったらしく、薬剤での防除もできないので大変なんです。被害が出た圃場もありましたが、田植え期に水位をコントロールすることでなんとか被害を最小にすることができました。
記者:それは安心しました!!
福田:ですので、気温の影響がどう出るか。ここだけが心配ですね。それでも、収量も品質も昨年と同程度の物はお届けできると思います。
記者:昨年産も「美味しかった。」とお客様からも好評でした。みなさんを信じて、今年も期待しています!!
福田:そう言われると緊張するなぁ笑 もうすぐ刈り取りですので、もうしばらくお待ちください。その代わり、良いお餅をガンガン作ってください!!
記者:お言葉みに沁みます笑 お客様にしっかりお届けできる様にがんばります。
福田:よろしくお願いしますよ。
記者:では最後に読者の皆様へ、ひとことお願いいたします。
福田:今後も私たちは安全安心・そして美味しい糯米を作り続けて参ります。ぜひ、そんな神埼のヒヨクモチを鳴海餅本店さんのお赤飯・お餅・おはぎを通じてご賞味いただけたら幸いです。
プロフィール
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